ナマクワランド原生花園



――砂漠の荒野は花園に変わった――


地球の気まぐれか? それとも奇跡か? 
この季節、アフリカ南部の砂漠が突如、花で覆われる。
それも人間が作った花畑ではない、まさしく野生の広大な花園。
「不毛の地」に眠る植物たちが、いっせいに目を覚ますのだ。
8000万年を費やした植物進化の極みが、アフリカの大地に眠っていた。

8月末、アフリカ南部の砂漠に
花の季節がやってきた。
レモンイエローの花を咲かせるグリエラム

8000万年も続いてきた乾燥気候は、
この地に独自の植物を誕生させた。
4000種もの植物が生育し、
そのうち3000種は世界中で
ここだけにしか見られない

昆虫たちにとって、短い花の季節は大忙し。
花に群がって、空腹を満たし、繁殖に没頭する。
花弁を運ぶ蟻(左)や多肉植物の花にとりついたフンコロガシの一種(右)



飛行機を乗りついで、アフリカ南端にあるケープタウンに到着したのは、日本を発ってから26時間後のことだった。


日本の3倍をこえる国土をもつ、南アフリカ共和国。
ケープタウンは、その南西部に位置する風光明媚な観光都市だ。

15世紀大航海時代、ポルトガル人によって発見されたこの地は、今日まで栄えてきた天然の良港としても知られる。


僕は車でケープタウンから国道7号線を一路北に向かい、隣国ナミビアとの国境を目指した。
2時間ほど走ると、景色は徐々に荒涼としたものへと変わっていく。
狩猟採集民ブッシュマンの流れをくむナマ族が暮らすナマクワランドに入ったのだ。

このあたりは年間降水量が300ミリにも満たない岩石砂漠が、南北に500キロ、東西に150キロも続く。
ちなみにナマクワランドは国境を越え、その先にはナミブ砂漠が北へ1000キロ以上も広がっている。


1996年に初めて僕は南アフリカを訪れた。
その時は野生動物を撮影するだけの目的だったのだが、ある日、動物保護区の宿で知り合った人が持っていた一葉の写真に、僕の目はくぎ付けとなった。


その衝撃的な写真は、野性美あふれるたくさんの花が咲き乱れる砂漠の光景であった。
花の季節葉終わろうとしていたが、僕は北へ向けて車を走らせていた。
行き先はナマクワランド・ナミブ砂漠地帯。
以来ほぼ毎年、僕は砂漠の花園を見にその土地を訪れている。


冬の6、7月に何度か雨の恵みを受けた砂漠では、8月に入ると内陸性の暖かい風が吹き始める。
すると、春をひたすら待っていた植物の種子たちが、いっせいに芽を出す。
4000種もの植物が、ありとあらゆる色の花のじゅうたんを広げるのだ。


パステル調のオレンジ、イエロー、ホワイト、レッド、パープル、ブルー、ピンクと、まるで色の博覧会のよう。
海岸地帯から内陸奥地までを覆い尽くす草花は、デージーからサボテンのような多肉植物など多種多様。
しかも、そのほとんどが世界でここだけにしか見られない珍しい植物なのである。
花たちは、2日から10日ほど咲き乱れた後に枯れ、砂漠は元の姿に戻る。


ただ、この花園にも脅威がせまっている。
人が持ち込んだヤギやヒツジが、野性の花園を食い荒らし、さらに世界中から訪れるプラントハンターたちが、絶滅寸前の植物などを不法に採集しているのだ。


ナマ族が伝える「神様の種から生まれた花園」。
この砂漠の奇跡が、人間によって永遠と消え去ってしまわなければよいのだがーー。

 ブッシュマンの血を受け継ぐナマ族の家族。
 年間300mmにも満たない乾燥地帯で、
 地下水を汲み上げ、農業を営んでいる
 砂漠の熱風は時に、花を数日で枯らしてしまう。
 花たちは種子を残すためにかかせない最低限の湿り気と、受粉に必要な昆虫や鳥たちを待ち続ける
 世界の多肉植物の10%が自生するこの地で、とくにアロエは巨木に進化してきた。
 樹齢500年を越える老木も珍しくないという
  雨の恵みによって、「砂漠」が「花園」へと姿を変えます・・・

このバイクを使って撮影しました

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