ウーラビンダ

アボリジニーが語り継ぐ精霊の大地

4万年以上も前からオーストラリア大陸で暮らしてきたといわれる先住民、アボリジニー。彼らには先祖から伝わる生きる知恵があり、聖なる地があり、世界創世の神話がある。



たくさんの部族からなるアボリジニー。
彼らは精霊や祖先にまつわる物語を受け継ぎ、音楽を奏で、壁画を描き、自然とともに歩む豊かな文化がある。

アボリジニーのジョージと白人ジム
51年ぶりの再会



「カッチ、カッチ、カカン、カカン」
金属音のような甲高い音が、浜辺に響きわたった。
ここはケアンズ近郊ヨーク半島の、太平洋岸にあるエリムビーチ。
「大地を踏み鳴らそう! カモン、ジム! 大地と踊ろう、昔のように」

オーストラリア原住民アボリジニーのジョージが白人のジムに手招きする。
2人は幼なじみで、この日51年ぶりに再会をはたした。
ジョージが手にしているのは、かつてこの海で暮らしたアボリジニーの貴重な食料であり、その骨は大事な楽器となったジュゴンの肋骨。

グーグ・イミディール族のジョージは、エリムビーチで生まれた。
8才になったとき、太平洋戦争が始まった。
日本軍の進入を恐れた当時のオーストラリア政府は、北部海岸に暮らすアボリジニーを強制疎開させ、特定の地域や島に収容した。
やがて戦争が終わり、アボリジニーたちはそのまま疎開地に残ったり、新しく作られた居留区に移り住んでいった。
そして、ジョージも、生まれ故郷に戻ることはなかった。
大きな町から、今はだれもいない
生まれ故郷にもどったジョージ。
ジュゴンの骨を打ち鳴らし
先祖代々伝わる踊りを披露してくれた
成人したジョージは教会で牧師になった。
いろいろな所に移り住み、白人の生活スタイルも覚えた。
充実した生活だったが、60才になったとき一大決心をした。
今は誰もいない生まれ故郷に奥さんを連れて戻ることにしたのだ。
同郷の奥さんにとってもジョージにとっても、それは親のそのまた親の代から伝い聞いてきた、自分たちアボリジニーの文化を、再確認することでもあった。


同い歳のジョージとジムは太平洋戦争のころ、ウーラビンダで出会い、すぐに友だちになった。
ウーラビンダは「カンガルーの座る所」という意味で、たくさんのカンガルーが生息するワジグ族の土地だ。

ジムの両親はアボリジニーの収容施設で働いており、彼は16歳までウーラビンダで過ごした。
その思い出は今でも忘れられず、その体験をもとに小説『ブラック・ボーイ、ホワイト・ボーイ』を11年前に出版した。
小説にはアボリジニーたちの自然と一体化した人間像が魅惑的に描かれており、ジムがウーラビンダでアボリジニーの長老たちから教わり、ジョージとともに体験したことがモチーフになっている。
ジョージ(左)とジム(右)。
51年ぶりとは思えないほどうち解けた二人。
文字を持たないアボリジニーの文化を、
ジムは活字に書きとめた

狩猟の文化を携え
アジアから海を渡った民



ジョージはエリムビーチに戻ってからは、食べ物をなるべく目の前の海や山から手に入れるようにしている。
「町で食べていた冷凍の牛肉よりも、自分で捕まえる魚やウミガメのほうがずっと体にいいからね」
とジョージは言う。
彼は自分でウミガメを捕まえるし、薬草を見つけるし、真水の沸く場所を探すこともできる。
生きていく上で必要な知識はどれも、代々親たちから教わってきたことなのだ。


アボリジニーは、今から4万年以上も前の、東南アジアで稲作が始められる以前に海を渡って来たアジア人種の子孫といわれている。
アボリジニーが伝えてきた狩猟生活の文化は、そのころの東南アジアの古い面影を、今に伝えているのかもしれない。

かつてはオーストラリア全土に、それぞれ独自の言語を持った250以上ものアボリジニーの種族がいたが、今残るのは60種ほど。
人口も一時は300万人を超えていたらしいが18世紀後半に白人とアボリジニーが初めて出会って以来、殺りくとヨーロッパから持ち込まれた病気で激減し、10万人近くまでなってしまった。
現在はオーストラリア全人口1700万人の1.7パーセントにあたる30万人ほどが生活している。
巨大な蟻塚(ありづか)は、
南北を教えてくれるコンパスにも、
下痢止めの薬にもなる

ヒクイドリが大地を創る
天地創造物語



風がユーカリの林を伝わり、海原が凪いできた夕暮れ時。
食事の準備を始めた奥さんの横で、ジョージはジムと僕に静かに語り始めた。
「世界はヒクイドリの卵から生まれたんだ」
「そしてその卵が地上のすべての動物や大地と天候の源となって、さらに大地は湿潤と乾燥の二つに分かれたのさ」と。

アボリジニーの過去を”ドリームタイム”と呼んでいる。
夢と同じように今は実在しない時間。
そしてそこに登場する先祖や生き物、精霊たちによって大地と自然が創りあげられたのだと彼らは信じてきた。

空を見ながらジョージは話を続ける。
「元々世界には男1人しかいなかった。
ある日突然、かれのふくらはぎから赤ちゃんが生まれてきたのさ。
赤ちゃんにお乳を飲ませるために空からときどき女性が降りてきて、赤ちゃんは大きくなると、その彼女といっしょに空に行ってしまった」

「その後も男には赤ちゃんがもう1人できて、子供が2人になったのさ。
その兄弟たちはそれぞれ、大地の湿潤と乾燥を支配することになった。
乾燥を支配する長男は、人々に強くなってもらうために、厳しい性格を持つ物を作っていった。
ある日には、火から山を作った。
またワニに歯を持たせたのも長男のやったことなのだ」

「その後長男は、自分を生んでくれた男と戦い、男を殺してしまう。
そして・・・・・・」

彼は時間のたつのも忘れて、親たちから聞いたドリームタイム、大地や動植物とともに何万年もの年月を重ねてきた、自然と人間誕生の物語を話し続けた。


ウミガメも彼らの大事な食料
アボリジニー、クク・ビデジ族の聖地、
カルカジャカ。
英名ブラック・マウンテン。
それぞれの部族には、
守り伝えてきた大切な場所があり、
語り継がれてきた神話がある。
ここでは2匹のワラビー兄弟
とメスの蛇との恋物語が
伝えられている
ドリームタイムは
過去が教えてくれる生きる知恵



生きるためのすべてを彼らに教えてくれるドリームタイム。
彼らはそこから自然に関する知識を身につけていく。
「ミドリアリの巣を水に浸して飲むと、風邪がすぐに治る。
蟻塚は破片を食べれば、下痢止めになる」

ジョージは樹海の中で話し始める。

「チーズのような匂いのする植物の実は、喘息に良く効き、葉は熱して湿布薬にして使えるぞ。癌にはあの樹の樹液がいい」
話は薬草だけにとどまらない。
「火事のときに飛び出たグラスツリーの樹脂は炭と混ぜて棒につけてとっておくんだ。棒を温めるといつでも接着剤として使えるからね」
「この植物で、魚を麻痺させることができるので漁に使うのさ」
知識は豊富で、あらゆるものが生活と結びついている。
それはジョージだけでなく、部族の共有の知識でも会った。


昔の記憶を呼び戻すために、生まれ故郷に地に戻ったジョージ老夫婦。
だが、大多数のアボリジニーは都会で暮らしている。
現実的には白人社会で自分にあった仕事を得ることはかなりむずかしい。
多くのアボリジニーが白人社会に絶望し、酒浸りの生活を送っているのも事実である。

4万年以上も「ドリームタイム」を語りつぎ、秘めたる精霊の大地を受けつぐ者たちは、もうじき「ドリームタイム」を過去へと永遠に消し去ってしまうのかもしれない。
アボリジニーの
ボディーペインティングをしてみた
アボリジニーのミラン(右)と
同級生のトム(左)。
これは二人にとって
初めての経験だった
数万年も前に
描かれたと思われる壁画には、
悪霊や動物たちが
みごとに表現されていた


居留区内の小学校に通う子供たち。
白人の子供たちと一緒に学ぶ子供たちも増えてきた



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