クックタウン

我が家は動物たちのオアシス

わざわざ野生動物を探しに出かけなくても、
住まいが野生動物でいっぱいの生活もある。
行き先を失った野生動物たちを保護し育てている家族が
オーストラリアの各地で活躍している。

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左からミッシェル、レスリー、アレックス。アレックスの母(写真左下の左端)も同居するにぎやかなブラックウェル一家
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ブラックウェル一家で一緒に暮らす野生動物たちは、ただ今全26匹。フクロモモンガ(写真右上)やカンガルーに似ているスナイロワラビー(その他)などが敷地内を駆けまわる


早起きのリトル


人差し指を噛まれた!
「あー眠い! またおまえね」 
レスリーは、毎朝5時半に必ず起こされる。
いっしょにベッドで寝ているスナイロワラビーのリトルが、「おなかがすいたよ!」と指を噛んでくるのだ。
するとレスリーは眠い目をこすりながらも、起きて彼のミルクの準備をしなくてはならない。

ワラビーはカンガルーの小形版で、鼻先が尖がっているのが特徴。
ブラックウェル一家には、リトルのほかにもたくさん動物たちが同居している。
有袋類は22匹のスナイロワラビーとフクロモモンが2匹、オブトフクロモモンガ1匹、バンディクート2匹の計26匹。
他に鳥も3羽いる。
これら有袋類とよばれるオーストラリア固有の動物たちは、おなかに赤ちゃんを入れる袋を持っていて、ほとんどが夜行性である。
夜間に活動するためか交通事故にあうことも多い。
レスリーの家にいる動物たちはすべて、事故や天敵に襲われて母親を失った孤児や、怪我や病気になったものが、拾われたりして連れてこられたものだ。

 レスリーはの北クイーンズランド州にある小さな町、クックタウンで暮らしている。
町をちょっと外れると、そこはもううっそうとした熱帯雨林。
レスリーは4年前から野生動物の保護活動をボランティアで始めた。
当初は家族4人で動物たちの世話をしていたが、反故の必要な動物たちが次々と連れられてくる。
あまりの忙しさを見かねて、2年前には南の都市で暮らしていた今年80歳になる彼女の母親がかけつけ、手伝い始めた。
昨年からはレスリーの息子、ブレットも都会から家族を連れてきて同居を始め、今では野生動物も含めた大家族となった。


動物たちを見守るボランティア


いっしょに寝ていたリトルは、まだ生後8ヶ月ほど。
半年前に連れられてきたとき、リトルは衰弱しきっていた。
「もう絶対助からない」とレスリーは思ったほどだ。
母親はハイウェーでトラックにひかれて死んでしまった。
翌日、道路整備の人が死体を道路から動かしているとき、母親のおなかが動くのがわかり、リトルを袋から出してレスリーのところに連れてきたのだ。
保護された時は体毛もない未熟児で、レスリーは2時間ごとにミルクを飲ませ、不眠不休で看護した。
奇跡的にリトルは助かった。

今でもリトルは、レスリーが作ったミルクを哺乳瓶で飲んでいる。
牛乳だとすぐに死んでしまうので、有袋類向けのミルクを専門の業者から取り寄せている。
年齢別に成分が異なるので、レスリーはそれぞれの育ち具合に応じたミルクを毎回用意する。
ひじょうに手間と費用がかかる作業だ。

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スナイロワラビーのリトルは、
母親がハイウェーでトラックにひかれて
死んでしまった。
リトルはそのとき、
母親のお腹の袋に
未熟児の状態で入っていて、
奇跡的に救助された



レスリーのベッド脇にはもう1匹スナイロワラビーがいた。
リトルよりもひとまわり大きく、生後1年ほど。
あごの下に小さな傷があるので、英語で傷を意味する”スカー”と名づけられた。
僕が近づこうとするとすぐに、隣の部屋へピョンピョンと跳ねていってしまう。
ここに来て5ヶ月にもなるのに、警戒心が強い。
家族の中でもレスリーにしか、まだなついていないそうだ。

町の公園に散歩に来ていた犬が、スカーに噛みつき引きずりまわした。
そこはたくさんの野生動物が生息する国立公園に隣接していて、「犬持ち込み禁止」の看板が立てられていたのだが。


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孤児「スカー」を優しく抱いている
ジョニィー。
動物が大好きなジョニィーは、
昨年父親ブレットといっしょに
都会から引っ越してきた
レスリーの願い


オーストラリアでは、交通事故で年間数万匹のカンガルーやワラビーなどの野生動物が犠牲となっている。
その孤児たちも毎年数千匹にのぼる。
さらに、犬や猫に襲われる被害も数万件。
レスリーが所属している「野生動物教育保護サービス協会」は、オーストラリア全土にネットワークをもつボランティア団体だ。
政府や企業の援助はほとんどなく、各家庭単位で精一杯の活動を行っている。


夕暮れ時、森から差しこむ木漏れ日の方向から16匹のワラビーが、レスリーの庭にやってきた。
「キム、ラルフ、ドン。よく来たね!」
レスリーは群れの中にいる、以前世話して森に返してやったワラビーたちを見つけて微笑んだ。
「わたしの活動ですべての動物たちが救えるわけじゃないの」
僕の目をしっかり見ながら、レスリーは話し始めた。
「この活動を続けることで、私の孫たちも含めてこの町の子供たちへの良い教育になればいいのよ」
「この美しい国、オーストラリアに生まれてきたワラビーたちも人間たちも、みんな仲良く暮らしていかなくちゃね」
川むこうのマングローブ森がオレンジ色からパープル色の夕焼けで染まり、真上の空にはうっすらと無数の星が輝きだしていた。
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7才になったばかりのアレックスも、
動物たちの餌の準備を手伝っている



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