環境破壊図鑑
ポプラ社
 写真・文 藤原幸一

表紙 裏表紙

北極や南極で融け出す永久凍土。10%も残されていない世界の原生林。温暖化で溺れ死ぬ10万頭以上の赤ちゃんアザラシ。飢えをしのぐために、ゴミ捨て場のビニール袋をあさる野生ゾウたち・・・・・・。

すでに73億にも膨れ上がった人間が、地球上あらゆるところで活動を行い、そこで起きてしまっている環境破壊。
さらに、極地でおきているオゾンホールの実態や、地球規模で起きてしまっている温暖化による環境異変・・・・・・。

今、地球上で何が起きているのか。人間は何をしてきたのか。人間はいったいこの地球に、これから何を残そうとしているのか?

原生林には、樹木や草花など多くの植物が生育している。その花や実をエサとしたり、樹の幹や土の中をすみかにしたりする多くの動物が生息している。その数は、陸地で生きる動植物種の3分の2以上にもなる。これらの生物は、原生林という空間で密接で複雑な関係を築き上げている。

国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の森林面積は2015年の統計で39億9913万ha(1ha=0.01平方キロメートル)あり、全陸地面積のおよそ30%を占めるという。しかし、森林の中には植林された二次林がかなり含まれており、過去に人間の手が全く入っていない森のことを原生林や古代林、極相林と呼んでいる。世界資源研究所(WRI)によると、原生林は2000年に12億8000万haで、南極とグリーンランドを除く陸地面積の9.7%しか残っていなかった。さらに、2013年には8.1%にまで減ったという。1990年から10年間の森林面積の変化を見ると、熱帯地域で急激に減少している。熱帯に残されていた原生林は、毎年1420万haずつ失われていった。これは、日本の本州の60%の広さにあたる森が毎年消滅しているに等しい。

主な原因は薪や木材用の伐採だが、それだけではない。農地に転換するための大規模な破壊や森林火災も深刻だ。また、道路や鉄道敷設のためのインフラ工事によって、森が細切れに分断されている。このため、たとえ原生林が破壊されずに維持されたとしても、森の樹木の密度が落ちたり、野生生物の繁殖や交流ができなくなったりしている。

日本列島よりも大きい、密集した浮遊物が世界中の大洋で発見されている。それは、人間が捨てたプラスチックゴミだ。科学雑誌「PLOS ONE」(2014年12月)の論文で、世界の海には少なく見積もっても500万兆個(5,000,000,000,000,000,000)のプラスチックゴミが浮遊していると発表された。天文学的な数字で見当もつかないが、海に深刻な事態が起きていることは伝わるだろう。

ぼくたちが毎日使っているペットボトルやレジ袋などが海に流され漂っているのだ。さらに、それらは紫外線や波により小さく砕かれ、大きさ5mm以下の大きさのマイクロプラスチックになっている。このように目にみえないプラスチックゴミが世界中の海に広がっていることが、新しい環境問題となっているのだ。

これを鳥や魚がエサだと思って食べてしまっている。東京湾でとれたカタクチイワシの8割近くの内臓からは、大量のマイクロプラスチックが発見された。また、プラスチックは細かくなると表面積が増えて、有害物質を吸着しやすくなることがわかってきた。
吸着物として、残留性有機汚染物質であるPCB(ポリ塩化ビフェニル)などが検出されている。

世界のプラスチックの生産量は年間約2億8800万トン(2012年)で、増加傾向にある。日本近海では、特にマイクロプラスチックの密度が高いことがわかってきた。九州大学の研究グループが2014年7〜9月、日本海など56カ所の調査した結果、1平方キロメートルあたり172万個が漂っていると推定された。これは世界平均の27倍の密度だ。世界中の海に漂うプラスチックを回収することは、今となっては不可能だ。何気なく使い捨てにしているプラスチックが海を汚し、魚など、海の生きものたちを傷つけていることを知るべきだろう。

人間が南極にやってきて、膨大なゴミが捨てられてしまった。このゴミ捨て場は、もともとペンギンの繁殖地だった。海から戻ってきたペンギンを待っているもの、それは古い重機やキャタピラ、針金の塊が積み上げられたゴミの山。そこを通らなければ巣に戻れないペンギンたちが、たくさんいる。ゴミの上を歩いて怪我をしてしまったペンギンは、1羽や2羽ではない。中には傷が悪化し、致命傷になることもある。

1900年代初め、世界の主だった捕鯨海域からクジラの姿が消え、捕鯨船団は未開発の南極海を目指した。彼らは、南極海の島々に捕鯨基地を設けて活動した。ノルウェーやイギリスなどが操業を始め、1934年に日本、1936年にパナマ籍のアメリカ捕鯨船団も加わった。クジラの捕獲頭数が決められていたにもかかわらず、いかに自国が多く捕るかという競争が起こり、「捕鯨オリンピック」と呼ばれた。各国の捕鯨頭数の合計が制限頭数に達したところで捕鯨を停止する、というのがルールだ。これは1959年まで続き、制限頭数が生息数を考慮していない数字だったことも災いし、シロナガスクジラやナガスクジラなどの大型クジラは絶滅が危惧されるまで捕りつくされてしまった。今なお、ほとんどの大型クジラは以前の頭数へ回復する兆しはみられていない。

北極圏は温暖化の影響がもっとも顕著に表れやすい地域で、気温上昇は世界平均の約2倍のスピードで進んでいる。気象庁のデータでは夏の北極海の海氷面積は35年間で3分の2ほどに減り、2012年9月には観測史上最小の318万平方キロメートルになった。アメリカ航空宇宙局(NASA)によると、1970年代後半以降、北極の海氷は10年に12%のペースで後退しており、そのペースは2007年以降さらに悪化している。2015年2月には、冬の北極の海氷面積が観測史上最小を記録した。グリーンランドでも氷が急減している。2005〜2010年に年平均で約2290億トンが失われ、地球の海面を年間約0.6mmのペースで押しあげたとの報告がある。

かつて、アフリカに広く生息していたクロサイとシロサイ。現在、クロサイは東部アフリカと南アフリカに限定され、シロサイは中央アフリカから南アフリカにかけての分断された地域だけで生息している。アフリカ南部に生息するシロサイの亜種ミナミシロサイは、狩猟によって19世紀の終わりに、100頭以下にまで減少。1960年代に10万頭いたクロサイも、東アフリカを中心に吹き荒れた密猟の嵐の中で2,410頭にまで激減してしまった。同じ頃アフリカ中部に 2,000頭あまりが生息していた亜種のキタシロサイは、生息地各国で起きた内戦の中で絶滅した。

そういったなか、ミナミシロサイは南アフリカでの100年におよぶ手厚い保護により、現在は2万頭にまで回復。クロサイも同じく、南アフリカや東アフリカ諸国の努力によって、4,200頭まで回復した。

それに水をさすように、アフリカ大陸の各地でここ数年、サイの密猟が急増している。南アフリカでは近年、組織的なシロサイの密猟が急増。2009年に122頭だったのが、2010年には333頭が密猟の犠牲になった。

こうした密猟の背景には、ベトナムや中国をはじめとするアジア諸国で、髪や爪と同じ成分のケラチンで出来ているサイの角が、伝統薬の成分として重宝され、多くの場合違法であるにもかかわらず、高値で取引されていることがある。実際、近年行なわれている密猟の多くは巧妙化し、ヘリコプターや暗視スコープ、消音器などを装備した銃器などを駆使し、夜間に警備をかいくぐって行なわれ、摘発を逃れている。

アシカやオットセイ、アザラシの繁殖地は世界的に保護されているのだが、生息数の減少は止まらない。彼らが漁をする場所が、人間の漁場と重なっているからだ。

タスマニア島にあるオーストラリアオットセイの楽園である繁殖地を取り囲む海に、思いがけない危機が迫っていた。体長はオスのほうが大きく、 200〜220cm、体重 220kg〜360kg。エサを探して潜るオットセイを待ち受けるもの―。それは、人間が仕掛けた魚網なのだ。絡まると抜けられず、溺死してしまうオットセイが後を絶たない。ぼくの目に飛び込んできた、海から繁殖地に奇跡的に生還できたある一頭にもその危機が……。魚網がからまった首から血をにじませながら、心配そうにこちらをじっとながめていた。

全長100kmにも達する延縄漁や、底引き網漁による混獲で溺死している。さらに気候変動によるエサの減少もあり、生息数が年平均で6%減ってきている。

アマゾン河流域の熱帯雨林は、世界に残された熱帯雨林の半分を占めている。そこには世界で最も多くの種類の動植物が見られ、一説には地球上の全生物の15〜30%が生息しているとされる。これが、アマゾンが「世界最大の生物多様性の宝庫」と呼ばれるゆえんだ。さらに、この森は地球に残されたどの森よりも多くの酸素を生み出している。しかし、地球最後の豊かな森・アマゾンが今、急速に破壊され、消え去ろうとしている。

アジアゾウが暮らしていた森が田んぼに換えられ生息地が減少し、食べ物を求めてその田んぼや畑に現れるようになってしまった。体長5.5〜6.5メートル、体高2.5〜3.2メートル、体重は最大で6.7トン。

2010年10月、スリランカで毎年200頭以上の野生ゾウが、農民によって殺されていることが報じられた。長いあいだゾウが減り続け、今では4000頭ほどの野生ゾウが生き残っているだけだ。2014年1月29日早朝、スリランカの小さな村近くの田んぼで、農民によってまたアジアゾウの命が奪われた。ぼくはその横たわったゾウの足に手をおきながら胸が苦しくなった。2日前にも、隣の村で同じ悲劇が起こったばかりだったのだ。

3,000年前までアジアゾウは西の中東イランから東の中国揚子江までにもおよぶ広大な、ほとんどとぎれることのない森や草原でくらしていた。その広さから推測すると、100万頭近くの野生ゾウがいたと考えられる。残念ながら、文明が起き、人間が増え続けたことにより、ゾウたちがくらしていた森や草原が破壊され、町や都市、工場、農地などに換えられてきた。かつてゾウがくらしていた豊かな自然は、今ではその95%を失っている。現在野生のアジアゾウは、孤立した小さな森で、4〜5万頭がほそぼそと生き残っているだけなのだ。

夏の終わり、長野県の地獄谷を訪れた。地獄谷は急斜面に囲まれ、森の中を30分も歩くと天然温泉があり、サルが現れてくる。200頭ほどいるサルたちを集めるため、野猿公苑スタッフは日に数回エサを与えている。十分なエサにありつけなかった子ザルが、人間の放置したビニールやゴミを、エサと間違えて口に入れていた。
ニホンザルは体長 50〜70センチメートルで、体重 8〜15キログラム。本州、四国、九州に生息する固有種で、人間を除く霊長類の中で最も北まで分布している。

ニホンザルは国の天然記念物として保護される一方、畑や果樹園を荒らしたり、民家に侵入して食料を盗んだりしている。電気柵の設置も行われていて、千葉県では300キロメートル以上にも及ぶ。それでも被害を食い止められず、有害獣として長い間捕獲されてきた。それに加え、2002年より個体数調整という制度が始まり、増えすぎたサルも駆除されるようになった。環境省の統計によると、1998年以降は有害捕獲で1万頭以上が駆除されていて、2010年には個体数調整も加えると、その数2万頭を超えた。

ガラパゴス諸島は、1978年、世界自然遺産第1号として登録された。その後、観光客がガラパゴスに殺到し、自然環境は激変した。急激な人口増加にともないゴミが増え、原生林を切り開いてつくられたゴミ捨て場では、ゴミが分別されないまま24時間野焼きされている。原生のもりは外来種によって破壊されている。2007年、ガラパゴスは緊急の保護対策が必要な「危機遺産リスト」に移された。
2010年には解除されたが、政府による環境保護プログラムが継続されることが条件となっている。
2006年から、ガラパゴスの森を再生するために、原生林復活プロジェクトが開始されている。ガラパゴス国立公園とチャールズダーウィン研究所、ガラパゴス高校、及び国際NGOピースボートとの共同プロジェクトだ。初期に植樹した固有種の苗は、今では7メートルを超える大きさに成長して林となり、残されていた小さな原生林とつながった。
南アフリカのロンデブレイ鳥類保護区の沼では、かつて数千羽のアフリカクロトキが繁殖していた。1980年代半ば、町の発展とともに生活排水が流れ込むようになり、沼が悪臭を放つようになったことで、トキの数は18羽にまで激減。町の人々は驚き、政府に働きかけて汚水処理場をつくった。数年後にトキが戻り始め、今では再びトキの繁殖地となった。この風景を、日本も取り戻すことができるだろうか。



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