「ペンギンを通してみえてくる・病める地球」

昨年の5月、都内で藤原さんの写真展が開かれた時、JEANの小島が初めてお会いしました。以来、お忙しいにもかかわらず、事務局にご連絡くださいます。92号の通信でもご紹介いたしましたが、写真集『ペンギンたちの旅・病める南極海』を2月に出版。その頃、ガラパゴスでの油流出事故が起きていて、「これから取材に行ってきます」との連絡を受け、このときから今回のインタビューのチャンスを待ち望んでいました。


―藤原さんとペンギンの出会いは?
 もともとは海洋生物学を専攻していたんです。ある時、オーストラリアの海岸でペンギンを初めて見て「かわいい!」って思いました。ペンギンが嫌いな人って聞かないですよね。誰にでも受け入れられる可愛らしさを持っていると思います。まだその時は、彼らの置かれている状況がどうなっているのかなんてことは全く知りませんでした。
 その後20数年にわたり、南極海を取り巻く南半球の各地で18種類の野生のペンギンを取材・撮影してきました。
 生息地が分散しているペンギンを見ることによって、様々な環境問題が見えてくるんですよ。

―新聞やラジオでも取り上げられていましたが、アルゼンチンの博物館に、藤原さんの写真の常設展示室ができたそうですね!
 ペンギン関係の展示品がないということで、依頼がありました。写真を提供することが「情報の押し売り」ではなく、これが日本とアルゼンチンとの「交流」になるのではないかと思っています。

―最も心配なペンギンの生息地はどこですか?
 ん〜・・・。どこも深刻です。
 アフリカペンギンは、人間との生活圏が近すぎますね。昨年アフリカで油の流出があり、2万羽のケープペンギンが油まみれになりましたが、事故がなくても1日に3羽は油まみれの個体が見つかります。これは、海上でタンカーからオイルが不法投棄されるのが原因。
 今年1月にガラパゴス諸島で起きた油流出事故では、昨年のアフリカでのレスキュー経験が役に立ち、ノウハウが生かされていました。そして、海流の影響などにより、最悪の状態からは免れました。しかしその後の調査で、ウミイグアナのフンから油流出時に使用された中和剤が検出され、今後の食物連鎖にどう影響するか、長期的なモニタリングが進められています。
 今回の油流出事故は、ガラパゴスでまさか起きるとは思いもしなかったものでした。原因には、観光客の増加が影響しています。観光船への補給のために、燃料運搬船の数が増え、それから、観光業にたずさわる人も増えました(人口は4倍)。このような事からも、以前より燃料の必要量が増えていることに、今回の事故は起因していると思われます。

―固有種が多いことで知られるガラパゴスですが、外来種による被害はありますか?それに対するエクアドル政府の対策は行われていますか?
 外来種被害はありますよ!人間が食用に持ち込んだ野イチゴなんてものが、どんどん増え、カメが昔から通っていた道も塞がれてしまい困っています。たくさんの外来種が、ガラパゴス固有の種を圧迫しています。(ここでいう野イチゴはトゲのある低木で増殖力が強い)。人間が島に持ち込んで野生化したヤギやブタ、イヌ、ネズミなどは、駆除をしていますが追いつかないでしょう。政府の対応としても、外来種駆除の予算確保がほとんどできていないので、いまだに十分な対策が取られていないのが実状です。

―この他にも、ガラパゴスにおける問題はありますか?
 すでに様々な問題を抱えているガラパゴスですが、近年、また新たな問題が起きています。ガラパゴス海域で密漁を行っている船が発見されているのです。観光客に対しては行動を厳しく制限したりしていますが、地元漁民や外国の漁船は自由に動きまわって密漁しているのです。アジアへ輸出するためのナマコが捕られています。向こうの人は、日本人も中国人も同じに考えているので、「どうして日本人は、そんなにナマコを食べるんだ!」といつも攻められます。
 最近の密漁者は携帯電話をもっているので、その場ですぐに政府高官に電話をしてつじつまを合わせ、「許可しているからいいんだ」となってしまう。

―日本からの援助は何かありますか?
 日本財団が調査船をダーウィン研究所へ寄付しています。それから、ナマコの基礎的な研究をするための援助をダーウィン研究所から要請されているところです。(ナマコを乱獲していると言われていますが、通常時の基礎データがないと比較できないので、研究が必要)

―今後の予定は?
 今年の12月に6回目の南極に行ってきます。南極は「地球最後のフロンティア」なんて思われているけれど、「地球最後のゴミ捨て場」になってしまうのではないかと危機感を感じています。

朝日新聞(4/13付)のインタビューで、「まず『可愛い』で関心を持ってくれればいいと思っているんです。次に環境問題に目を向けてほしい」とのコメントがありました。ペンギンだけでなく他の動物や植物などを通して、地球からのメッセージを発信されている藤原さんです。