<進化の方舟(はこぶね)はいま>
◆鳥たちに壊滅的打撃も
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ダーウィンフィンチ。ガラパゴス諸島にすむスズメ目の鳥、フィンチの総称だ。科学界の巨人の名を冠したこの小さな鳥は、近年の研究で現在もダイナミックな進化を続けている、たぐいまれな生物だと分かってきた。進化論の島を象徴するこの小鳥たちにも、深刻な危機が訪れている。
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人口の多いプエルトアヨラ(サンタクルス島)や、空港があるサンクリストバル島で、大きないぼを持つフィンチを見ることがある。鳥ポックスというウイルス性感染症が原因だ。91年からガラパゴスで撮影を続ける写真家、藤原幸一さんは「今では20羽に1羽くらい見つかる」と話す。
目の周囲、くちばしの付け根、足など、羽毛の生えていない皮膚にいぼができる。致死性ではないが、見えない、食べられない、木に止まれないという状態になり衰弱し、時に死に至る。群れに広がると、個体数が減る。 |
鳥ポックスウィルスに感染したダーウィンフィンチ。目の周りとくちばしの付け根に大きないぼができている=写真家・藤原幸一さん提供 |
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チャールズ・ダーウィン研究所のフィンチ研究者、ブリジット・フェセル博士によると、ガラパゴスではフィンチ7種とマネシツグミ、キイロアメリカムシクイで感染が確認されている。すべて固有種か固有亜種だ。
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感染経路は二つ。蚊など皮膚に傷を付ける昆虫が媒介する場合と、鳥同士がぶつかって「生傷(なまきず)」から感染する場合だ。元々ガラパゴスには、このウイルスも媒介昆虫もいなかった。すべて人間とニワトリなどの家禽(かきん)の移住で持ち込まれた。
生傷による感染も人間が原因だ。藤原さんは「ごみ捨て場の生ごみやレストランの残飯などにフィンチが群がり、野生ではあり得ない密集状態ができ、鳥同士の接触が増えている」と指摘する。フェセル博士も「人の少ない高地では感染例が少ない。標高400メートル以上には蚊が生息しないのと、人間が作る鳥の過剰な密集が起きないからだ」と言う。人間の営みが、野生生物の行動や習性すら変えてしまい、鳥たちを絶滅の危機に追いやっている。
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健康なダーウィンフィンチ=ガラパゴス諸島サンタクルス島で08年11月12日、平田明浩撮影 |
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忍び寄る危機は鳥ポックスだけではない。97年には、フィンチのひなを幼虫の餌にするハエがサンタクルス島で見つかった。更にフェセル博士が恐れていることがある。「蚊が高地に順応したらどうなるか。鳥ポックス同様、蚊が媒介する鳥インフルエンザや鳥マラリアの病原体が移入してきたら……。鳥たちは短期間で壊滅的打撃を受けるでしょう」 【奥野敦史】
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(C) 毎日新聞 |